語り継ぎたい古典サイレント映画 Vol.19  



 

『散り行く花』 (Broken Blossoms)

 “アメリカ映画の父”と云われるD・W・グリフィスの代表作の一つで、創立されたばかりのユナイテッド・アーチスツの作品。人道主義作家と評されるトーマス・バーグの「ライムハウス夜景集」に収録された短篇小説「中国人と子供」が原作である。
 主演は、グリフィス監督の秘蔵っ子であり、サイレント時代を代表する女優の一人であるリリアン・ギッシュ。当時すでに二十歳を越えていたが、可憐で愛おしい薄幸な少女役を好演。口の両端を指で押し上げて無理に笑顔を作る演技は、本作の象徴的なシーンとなっている。
 中国人青年を演じたリチャード・バーセルメスは、母親がロシア出身の女優アラ・ナジモヴァと友人だったことから、ナジモヴァに薦められて映画界入り。本作では、目を吊り上げて細く見せるなどメーキャップにも凝り、中国人を演じることへの真摯な態度が見て取れるが、一方では、西洋人が東洋人を演じることの違和感を指摘する声もあった。グリフィス監督の『東への道』(1920年)でもリリアン・ギッシュの相手役を務めており、又、「映画芸術アカデミー」の創立メンバーで第一回アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされている。
 少女の父親バロウズ役は、監督兼俳優として活躍したイギリス出身のドナルド・クリスプ。ダグラス・フェアバンクス主演の『ドンQ』(25年)等の監督作があり、俳優としても『ダグラスの海賊』(26年)での老海賊役が印象に残る。41年の『わが谷は緑なりき』でアカデミー助演男優賞を受賞した。
  「『散り行く花』によって映画が〈第八芸術〉として認められた」さえ云われる作品で、米ニュース誌には「偉大なる芸術家の偉大なる作品。之によってグリフィスは、悲劇が人の心に訴ヘる事が出来る事を立証して居る。その価値の優れた事は筆紙に述べ尽くせないのである」と評された。また、公開時の日本の雑誌では「(監督、脚色、演技、撮影技術の)総てが見事な綜合を見せて居る」とあり、「グリフィス氏の本邦に発表された従来の作品の何れに比しても優るとも何等遜色なき大作品たる事を断言する」と記されている。
 多くの作品でグリフィスと組んでいるG・W・ビッツァーのカメラワークも絶賛された作品であるが、バロウズがルーシーを襲う場面の撮影では、その迫真の演技に我を忘れたビッツァーがカメラから手を放して「ヤイ、この野郎、娘を捕まえた手を離せ!」と怒鳴ってしまった為に撮り直しになったという逸話も残っている。


 中国人青年チェン・ハンは、大聖仏陀に深く帰依し、 姿は俗でも心は仏の慈悲に溢れていた。過日、上海の街路で白人水兵の喧嘩があり、彼はその仲裁に入ったのだが、殴り倒されてしまった。血の気の荒いアングロサクソン族には仏陀の慈悲をもって済度する必要があることを痛感したチェン・ハンは、ロンドンへと布教にやって来る。だが、現実は惨たらしくもこの若い精神主義者の夢を粉砕してしまったのだ。酒色を愛し、阿片に耽溺し、賭博を日常とする事で、チェン・ハンは昔の純粋さを全く失ってしまっていた。
 ルーシーは悲しい少女である。父親のバロウズは酒と女に目がない凶暴な拳闘家で、何かにつけて殴る蹴るの乱暴を働き、彼女はいつも生傷が絶えなかった。ロンドン場末のライムハウスで、波止場人足達の棄てる錫紙を拾って生計を立てているルーシーのたった一つの楽しみが、チェン・ハンが営む雑貨店の飾り窓を覗くこと。ルーシーの姿を見掛けることで、チェン・ハンもまた、少しずつ良心を取り戻すのだった・・・。
  

                             
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